生活防衛資金は、失業・病気などの不測の事態に対して、生活を維持するために確保する資金のことです。
投資・資産運用で用いられることも多い言葉であり、生活防衛資金を確保したうえで、余剰資金の範囲内で投資はおこなう必要があると言われることがあります。
しかし、具体的に生活防衛資金がいくら必要であるかわからない方もいることでしょう。
本記事では、生活防衛資金がいくら必要であるか、参考になる金額の目安を紹介します。記事を読むことで、資産運用を考えるうえで必要な生活防衛資金の考え方がわかるようになるでしょう。
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生活防衛資金が必要である理由は、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
生活防衛資金は、失業などを理由に収入が途絶えた場合の備えになります。生活防衛資金がなければ、家賃、光熱費などの日々の生活費を支払えなくなり、生活に支障をきたすかもしれません。
雇用保険の失業給付金が受けられる場合も、受給までの待機期間があるため、その間の生活費は生活防衛資金でまかなう必要があります。
特に住宅ローンなどの固定費の支払いを続けている場合は、生活防衛資金の重要性が高まるでしょう。収入が途絶えても生活に困ることがないように、生活防衛資金を備えとして確保しておくことが重要です。
突然の病気やケガによる入院費、家電製品の故障、車の修理費など、生活のなかで予期せぬ出費が発生する可能性があります。
一時的に数十万円程度の負担が発生した場合でも、生活防衛資金の備えがあれば、予期せぬ出費にも対応しやすいでしょう。
特に資産運用をおこなっている場合、資産の一部を売却しなくても出費をカバーするための資金を用意しやすくなります。
生活防衛資金を持つことは、日々の安心感を得るためにも重要です。職を失う、家族が病気になるトラブルを想定した時、生活の見通しが立たない状態では不安が生まれます。
しかし、生活防衛資金を確保していれば、少なくとも一定期間は問題なく暮らしていけるため、安心感を得られるでしょう。
生活防衛資金は、日々を安心して生きるための心の土台にもなります。確保したうえで生活すれば、余裕のある暮らしにつながるでしょう。
家庭に子どもがいる場合、生活防衛資金はさらに重要になります。家庭の収入が途絶えることがあれば、子どもの衣食住・教育・医療にも影響します。
子どもの生活費を含めて生活防衛資金を用意すれば、万が一のことがあっても、子どもの生活を守れるでしょう。
生活防衛資金は、想定される毎月の生活費が増えるほど増加します。家族が増えるほど、用意が必要な生活防衛資金の金額も上昇するでしょう。
生活防衛資金は、資産運用をおこなううえで意識されることが多いです。余剰資金だけではなく、生活費など必要な資金を投資に回してしまうことは、資産運用に失敗する原因の一つです。
収入が途絶えて生活費の確保が必要になった場合、生活防衛資金がなければ、予定にないタイミングで資産の一部を売却する必要が出てきます。
投資対象の価値が下がっているタイミングであれば、リターンがマイナスになることもあります。投資を続けていればより大きなリターンを得られた場合は、機会損失になるでしょう。予定にない途中売却は資産運用の失敗につながります。
生活防衛資金を確保したうえで、余剰資金を投資すれば、リスクなく投資を続けやすいです。望まない途中売却を防ぐためにも、生活防衛資金を意識して資産運用を始めるようにしましょう。

将来に発生する可能性があるトラブルに備えて、安心して生活を送るためには、生活防衛資金の確保が重要です。具体的にいくら用意する必要があるかを考えるために、基本的な考え方を紹介します。
生活防衛資金の目安は、一般的に生活費の3カ月~6カ月分が目安です。緊急事態が発生しても3カ月~6カ月の期間があれば、多くの場合は対処して解決できると考えられます。
仮に職を失い収入が途絶える事態が発生した時、再就職までにかかる求職期間は以下のとおりです。
| 求職期間 | 正社員 | 非正社員 |
| 2週間未満 | 22.1% | 21.5% |
| 2週間以上~1カ月未満 | 17.8% | 22.8% |
| 1カ月以上~3カ月未満 | 27.7% | 27.3% |
| 3カ月以上~6カ月未満 | 14.3% | 11.1% |
| 6カ月以上~1年未満 | 10.0% | 7.6% |
| 1年以上~2年未満 | 6.5% | 5.9% |
| 2年以上 | 1.7% | 3.8% |
厚生労働省『労働者アンケート調査結果』より筆者作成
再就職までにかかる求職期間は、1カ月以上~3カ月未満の割合が正社員・非正社員ともに多く、生活防衛資金の目安を生活費の3カ月とする根拠になります。
また、正社員の場合、3カ月以上~6カ月未満で再就職を終える割合は全体の81.8%であるため、ほとんどのケースで6カ月あれば解決に向かうと考えられるでしょう。
よって、毎月の生活費が25万円の家庭であれば、最低でも3カ月分の75万円、6カ月分の150万円を用意するとさらに安心です。また、生活費の定義は、衣食住を維持するために最低限必要な支出です。
食費・家賃・光熱費・通信費・保険料を合算して算出しますが、娯楽費・交際費など該当しない支出は生活防衛資金には含めません。
生活防衛資金の目安は、生活費の3カ月~6カ月分と言われますが、働き方によっては増えることもあります。
自営業者・フリーランスの場合、会社員と比較して受けられる公的保障が少ないため、1年分の生活費の用意が理想です。
会社員は仮に失業した場合でも、雇用保険で失業手当を受けられます。給付までに待機期間がありますが、制度による補助が期待できるでしょう。
一方で、自営業者・フリーランスは正社員と比較して収入が不安定になりやすく、収入が途絶えた場合も雇用保険の対象にならないことから、多くの生活防衛資金が必要と考えられます。
毎月の生活費が25万円の場合、一般的な会社員の場合は生活費の3カ月~6カ月分になる75万円~150万円を用意すれば問題ありません。一方、自営業者・フリーランスの場合は1年分となる300万円を用意したいところです。
生活防衛資金の目安は、基本的には3カ月~6カ月分です。しかし、自営業者・フリーランスや、より安心して生活したい場合は1年分を確保するようにしましょう。

ここからはデータを示したうえで、生活防衛資金で具体的に参考になる金額の目安を解説します。
総務省統計局の『家計調査報告 〔 家計収支編 〕 2024年(令和6年)』によると、単身世帯の生活費の平均は16万9,547 円です。
生活費の内訳には、食費・家賃・光熱費・家事用品・被服・保健医療・交通・通信費が含まれています。
ただし、衣食住を維持するため最低限の費用に含まれないと考えられる、教養娯楽費・その他の消費支出は除外できるでしょう。
教養娯楽費が2万375円、その他の消費支出が2万4,592円であることから、正確には12万4,580円が生活費と考えられます。
独身の場合は、収入をすべて自分のために使えることから、緊急事態に対して支出を個人の判断で削りやすいでしょう。
二人の世帯の生活費の平均は、総務省統計局の『家計調査 / 家計収支編 二人以上の世帯』の調査では26万8,755円でした。
教養娯楽費が2万6,776円、その他の消費支出が5万5,070円であるため、最大で18万6,909円の削減が見込まれるでしょう。
共働きの家庭の場合は、片方の収入が途絶えても、家計全体ではすべての収入が途絶えないケースも考えられます。
リスクが分散するため、その分だけ生活防衛資金の設定を少なく考慮してもいいでしょう。
子どもがいる世帯は、想定される子どもの人数によって生活費の平均は変わります。
3人暮らしから6人以上で暮らす場合の生活費の平均を以下にまとめました。
| 家庭の人数 | 生活費の平均 |
| 3人 | 31万96円 |
| 4人 | 34万1,400円 |
| 5人 | 35万9,917円 |
| 6人以上 | 36万8,655円 |
総務省統計局『家計調査 / 家計収支編 二人以上の世帯』より筆者作成
子どものいる家庭は、単身世帯・夫婦二人で暮らす世帯と比較すると多くの生活費がかかります。
子ども1人がいる3人暮らしでは、約31万円の生活費がかかるため、最低でも100万円に近い生活防衛資金が必要になるでしょう。
家族が多いほど、生活防衛資金は高く見積もるようにすると安心です。
ここまでの内容を踏まえて、生活防衛資金の具体的な金額をシミュレーションします。
上記のケースを想定して、一般的な会社員の目安である3カ月・6カ月分、自営業者・フリーランスの目安になる1年分の生活防衛資金の金額を以下にまとめました。
| 形態 | 3カ月 | 6カ月 | 1年 |
| 単身世帯 | 42万円 | 84万円 | 168万円 |
| 夫婦二人暮らし | 69万円 | 138万円 | 276万円 |
| 子どものいる家庭 | 96万円 | 192万円 | 384万円 |
平均的な生活費を参考に計算しているため、上記の金額が生活防衛資金の大まかな目安になります。
現状の時点で生活防衛資金に相当する貯金があるかどうかを判断するには、自身の家族形態と働き方にあてはまる上記の金額を参考にするといいでしょう。
例えば、子どものいる家庭の会社員で貯金が200万円ある場合、生活費の6カ月分にあたる192万円以上の生活防衛資金を準備できていることになります。
一方で、夫婦二人暮らしのフリーランスで貯金が100万円の場合は、生活費の1年分である276万円の生活防衛資金を下回る計算です。
生活防衛資金を現時点で十分に用意できていない場合は、用意する方法を考えるようにしましょう。

生活防衛資金を用意する方法を以下にまとめました。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
資金をすべて一つの口座で管理していると、どれくらいお金が残っているのかがわからなくなります。
意識して確保しておかなければ、気づかないうちに生活防衛資金を使ってしまうかもしれません。よって、生活防衛資金を貯めるための専用の預金口座を作って管理するようにしましょう。
生活防衛資金の預け先の条件は、元本割れのリスクがないこと、引き出しに時間がかからないことです。いつでも引き出しやすい普通預金、普通預金と比較して金利の優遇を受けられる定期預金が選択肢になります。
十分な生活防衛資金を現時点で用意できていない場合は、先取り貯金で計画的にお金を貯めましょう。先取り貯金は、給料が入った段階で、生活費を使う前に一定額を貯金に回す方法です。
使ったあとに余ったお金を貯めるのではなく、先に貯めて残りで生活する意識であれば、確実に資金を確保できます。
例えば、毎月の手取りが30万円であれば、6万円を生活防衛資金として積み立てて、専用口座に貯金します。先取り貯金を続ければ、いずれは必要な生活防衛資金の額面に到達するでしょう。
生活防衛資金を確保したあとの貯金は余剰資金となるため、投資に回すことができます。
生活防衛資金を貯めようと考えてもお金が貯まらない場合は、支出の見直しから始めてみましょう。家計簿をつけて支出を把握すれば、必要のない支出を削減できます。
優先して見直すべき費用は固定費です。光熱費・通信費は契約する会社を変えることで、安くできる場合があります。使用していないサブスクリプションを解約すれば、継続的な節約効果が期待できるでしょう。
また、支出の見直しは生活防衛資金の削減にもつながります。生活を維持するために必要な費用であっても、見直すことで節約できるケースもあるでしょう。

投資・資産運用を始めるにあたって、生活防衛資金の確保は重要です。しかし、余剰資金がない場合や生活防衛資金を確保していない場合でも投資は始められます。
余剰資金が十分にある、余剰資金がない、生活防衛資金を確保していないなど、さまざまなケースで実践できる生活防衛資金を意識した投資のやり方を3つ紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
投資の基本は、生活防衛資金と近い将来に発生する大きな支出を、貯金から差し引いた余剰資金のみでおこなうことです。
例えば、貯金が500万円あり、生活防衛資金が120万円の時、資産運用に利用できる余剰資金は380万円になります。
急な出費が発生した場合に生活防衛資金を用意していなければ、投資資金を引き出さなければならない状況になる可能性があります。
また、車の購入や住宅ローンの頭金の支払いなど、近い将来に発生する大きな支出があれば、生活防衛資金とは別に資金を確保しておきましょう。
投資は余剰資金でおこなうべきであり、そのために必要な考え方が生活防衛資金の確保になります。
貯金では生活防衛資金の確保が精一杯であり、まとまった余剰資金がない場合は、毎月の貯金の一部を投資に回す方法が有効です。
例えば、毎月安定して6万円を貯金している場合は、そのうちの3万円を投資に回せば資産運用を始められます。投資信託など、少額から投資できる投資対象に毎月の積立投資をおこなえるでしょう。
毎月の収入で投資するのであれば、生活防衛資金に手を付けることなく投資を続けられます。
生活防衛資金の確保が難しい状況にあり、貯金から始める必要がある場合、ポイントを利用して投資する方法があります。
月々の支出は、クレジットカード・電子マネーなどで支払うことでポイントが貯まります。貯めたポイントの種類によっては、投資信託などの金融商品の購入に使用できます。
ポイント投資は、元手となる資金がなくても始められるでしょう。貯金を一切減らすことなく投資を始められるため、普段の支払いでポイントを貯めることを意識すれば誰でも実践可能です。
生活防衛資金は、収入が途絶えた時や予期せぬ出費が発生した際に、生活を守るための大切な備えです。生活防衛資金の確保は、家計の安定を保つだけでなく、安心にもつながります。
資産運用では、生活防衛資金を確保したうえで投資をおこなうことが重要です。しかし、生活防衛資金の確保状況によって適切な運用方法も変わるでしょう。
必要な生活防衛資金と、資産運用の方法を適切に判断する場合は、家計の金融の専門家であるFP(ファイナンシャルプランナー)への相談がおすすめです。
専門家のアドバイスを受けて、適切な家計の管理と並行した資産運用を両立しましょう。