住宅ローンを組むにあたって、年収の何倍まで借りられるのか気になる方もいるでしょう。
金融機関から借り入れできる金額の上限である借入限度額を知りたいがために、上記のような疑問が生まれると考えられます。
しかし、借入限度額と返済可能額は必ずしもイコールではないため、借入限度額を基準に住宅ローンを組むことは危険かもしれません。
この記事では、年収の何倍まで住宅ローンを借りられるのか疑問にお答えしたうえで、借入限度額に対する考え方と無理なく計画的に住宅ローンを返済するためのポイントを紹介します。
記事を読むことで、現実的に住宅ローンの返済をおこなうにあたって必要なポイントがわかります。住宅ローンの返済で借入限度額を強く重視している方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
コンテンツページ
まずは、住宅ローンで借りられる資金が年収の何倍にあたるのかを確認しましょう。住宅ローンの融資額と年収の関係を中心に解説します。
住宅金融支援機構では、物件の種別ごとに住宅ローンを年収の何倍まで借りているのか示す、年収倍率を公開しています。物件の種類における年収倍率の平均は、以下のとおりです。
住宅の種別 | 年収倍率 |
注文住宅 | 7.0倍 |
土地付き注文住宅 | 7.6倍 |
建売住宅 | 6.6倍 |
マンション | 7.2倍 |
中古戸建住宅 | 5.3倍 |
中古マンション | 5.6倍 |
住宅金融支援機構『2023年度 フラット35利用者調査』より筆者作成
上記の結果から、住宅の種別ごとに年収倍率は異なるところですが、5倍から7倍程度が目安であるといえるでしょう。
具体的には、年収800万円の方で注文住宅を購入する場合は、上記の統計を参考にすれば「800万円×7倍=5,600万円」の住宅ローンを組んでいる方が多いと考えられます。
しかし、上記の年収倍率はある理由から、実態と比較すると高い傾向にあります。
上記で示した統計の年収倍率は、物件の購入金額に基づく数字であり、契約時に最初に支払う頭金を計算に入れていません。
つまり、住宅ローンの借入金額に自己資金である頭金が合算されているため、実際の住宅ローンの融資額は低くなると考えられます。
フラット35の統計では、頭金の平均額と購入価格に対する割合も示されています。
住宅の種別 | 頭金の平均額 | 頭金の割合 |
注文住宅 | 699万円 | 18.1% |
土地付き注文住宅 | 473万円 | 9.7% |
建売住宅 | 294万円 | 8.2% |
マンション | 1,188万円 | 22.7% |
中古戸建住宅 | 219万円 | 8.7% |
中古マンション | 529万円 | 17.4% |
住宅金融支援機構『2023年度 フラット35利用者調査』より筆者作成
※千円未満の単位は切り捨て
住宅ローンの契約時には10%~20%の頭金が支払われているため、年収倍率の統計に与える影響は大きいといえるでしょう。よって、統計の年収倍率は実態よりも高い傾向にあります。
上記の統計をもとに、住宅ローンは必ず年収の5倍~7倍まで借りられると思い込まないようにしましょう。
年収倍率の推移を見ると、長期的には上昇傾向にあります。現在と10年前の年収倍率を比較しました。
住宅の種別 | 2013年 | 2023年 |
注文住宅 | 5.8倍 | 7.0倍 |
土地付き注文住宅 | 6.6倍 | 7.6倍 |
建売住宅 | 6.3倍 | 6.6倍 |
マンション | 6.2倍 | 7.2倍 |
中古戸建住宅 | 4.8倍 | 5.3倍 |
中古マンション | 4.9倍 | 5.6倍 |
住宅金融支援機構『2023年度 フラット35利用者調査』『2013年度フラット35利用者調査報告』より筆者作成
10年前の年収倍率と比較すると、すべての住宅種別において、年収倍率が上昇していることがわかります。
住宅ローンの金利水準が10年にわたって低く推移しているため、借入金額が増えやすい状況にあることが原因の一つといえるでしょう。
年収に対する借入金額が増えやすい状況にあるため、借入限度額が意識されることが多くなっています。次は、住宅ローンの借入限度額がどのように決まるのかを解説します。
住宅ローンで借りられる上限額が、借入限度額です。欲しい物件が高額である場合は、借入限度額まで住宅ローンを借りたいと思う方もいるかもしれません。
住宅ローンの借入限度額がどのように決まるのか、その基準と変動する要因について詳しく解説します。
住宅ローンの借入限度額は年収そのものを基準にするよりも、年収に対するローン返済額の割合を示す返済負担率で考えることが一般的です。
金融機関は一般的に、借入限度額となる返済負担率の基準を30%~35%に設定しています。30%~35%の返済負担率の基準では、住宅ローンの返済は以下のようにシミュレーションされます。
内容 | 金額 |
毎月の返済額 | 19万8,757円 |
総返済額 | 8,347万7,940 円 |
利息分 | 2,347万7,940 円 |
年収倍率 | 約8.5倍 |
返済負担率 | 34.07% |
返済負担率が35%以内であることから、借入限度額に近い状態で融資を受けられる水準にあるといえます。年収を基準にすると約8.5倍の金額を借りている状態です。
しかし、上記のシミュレーションは一般的に返済負担が大きい返済方法であるため、上記と同様の水準で返済計画を立てることをおすすめしません。
年収倍率ではなく、返済負担率を基準に借入限度額を決める金融機関が多いため、返済負担率について理解しておきましょう。
借入限度額は主に返済負担率によって決まりますが、審査で明らかになった契約者の属性によって変動します。
例えば、年収は高くても勤続年数が低い場合は、融資額の決定において不利になります。また、信用情報に問題がある場合は、審査の通過にも影響を与えるといえるでしょう。
借入限度額に大きく影響を及ぼす要素は、住宅ローン以外にカードローンなどのローンの借り入れがあるケースです。
なぜなら、ほかの借り入れの返済額も含めて住宅ローンの返済負担率を計算されることが多いからです。そのため、ほかの借入金額によって住宅ローンの借入可能額が減少する可能性があります。
次は、借入限度額を前提に住宅ローンを契約することが危険である理由を見ていきましょう。
借入限度額を前提に住宅ローンを契約することが危険である理由は3つあります。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
住宅ローンの借入限度額に合わせて契約すると、住宅ローンの返済負担が非常に重くなります。ギリギリ返済できる水準ではあるかもしれませんが、長期的に返済するならリスクが高い状態です。
なぜなら、急な病気、事故、物件の修繕費用など予期せぬ出費が発生した場合、対応することが困難になるからです。
貯蓄が十分にある状態であれば、問題ないかもしれません。しかし、予期せぬ出費に備えられる自己資金がない場合は、借入限度額に合わせた住宅ローンは危険になります。
余裕をもって住宅ローンを返済するためには、借入限度額よりも低い水準で、無理のない返済を心がけましょう。
当初は借入限度額に基づいた返済計画が成立していたとしても、将来的な金利上昇や収入の減少などの外部要因により返済が滞り、家計が破綻するリスクがあります。
借入限度額をできる限り低金利で借りたい場合は、初期の金利が低い変動金利を選択すると考えられます。
しかし、経済状況の変化により、金利が上昇すれば、月々の返済額が増え、家計の負担が急激に増加する危険性もあるでしょう。
他にも、住宅ローンの返済で頼りにしている収入がなにかの理由で途絶えてしまった場合は、返済が困難になります。
状況の変化に対するリスクを回避するには、柔軟な対応がしやすい余裕をもった返済計画が求められます。
借入限度額を前提に住宅ローンを契約すると、借入金額が大きくなるため、毎月の返済額も高く設定されます。
結果として、毎月の収入から住宅ローンの返済に充てる金額が大きくなり、将来のための貯蓄に回せる資金が減少します。
貯蓄は予期せぬ出費に備えられるだけでなく、教育資金や老後の生活費などの将来的なライフイベントに備えるためにも必要です。
住宅ローンの返済と十分な貯蓄は、並行しておこなえるようにすることが望ましいです。貯蓄と並行できるようにするためにも、借入限度額を前提に住宅ローンを組むことは避けましょう。
最後に、計画的に住宅ローンを返済するためのポイントを紹介します。
計画的に住宅ローンを返済するためのポイントを3つ紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
住宅ローンの返済は借入限度額となる返済負担率・年収倍率を意識するのではなく、現実的に返済を続けられる無理のない返済負担率に設定しましょう。
返済負担率の上限は30%~35%程度とされていますが、余裕をもった返済をするなら返済負担率の基準は20%以内が望ましいです。
日本の全国・三大都市圏の返済負担率の平均も以下のとおり、20%以内に収まっています。
エリア | 返済負担率 |
全国 | 19.4% |
三大都市圏 | 19.5% |
国土交通省『令和5年度 住宅市場動向調査報告書』より筆者作成
具体的には、年収500万円の方が返済負担率20%以内で返済する場合、年間の返済額は100万円以内、月々の返済額が約8.3万円以内です。
借入限度額を基準に住宅ローンの返済計画を立てるのではなく、返済負担率を基準に無理のない返済計画を立てるようにしましょう。
住宅ローンの契約時に、頭金の支払いなどで手元に残る現金がほとんどなくなると、予期せぬ出費に対応できなくなります。
住宅ローンの返済は、返済計画そのものに無理がある場合や、手元の資金が十分にない場合に滞るリスクが高まります。
契約時には、頭金や諸費用などの支出を考慮したうえで、最低でも生活費の半年分程度の予備資金を用意しましょう。
予備資金は予想外の事態が発生した場合の保険になります。ローン契約後も並行して貯金を続けられる状況にすることで、より返済が安定するでしょう。
返済を安定したものにするためには、貯金の全額を頭金に回すのではなく、予備資金を残すことを意識してください。
上記のとおりに返済計画を立てたうえで、返済が順調に進んだ場合は、長期的に使用する予定がない余裕資金が生まれることもあるでしょう。
余裕資金は住宅ローンの繰り上げ返済に活用することも、選択肢の一つです。繰り上げ返済では、月々の返済とは別にまとまった資金を任意で返済できます。
住宅ローンの元本を減らし、将来の利息負担を軽減する効果を期待できるでしょう。繰り上げ返済の方法によって、返済期間が短縮される効果、毎月の返済額が減少する効果があります。
予備資金など必要な資金を確保したうえで、柔軟に繰り上げ返済を活用することで、効率よく住宅ローンを返済できるでしょう。
繰り上げ返済はタイミングも重要であるため、効果的なタイミングで返済をおこなうなら、専門家に相談することを推奨します。
住宅ローンを組む際には、「年収の何倍まで借りられる?」などの借入限度額を前提にした発想ではなく、無理のない返済負担率を基準に計画することが重要です。
借入限度額を前提に住宅ローンを組むと、予期せぬ出費や金利上昇、収入減少に対応できなくなるリスクがあります。
返済を開始する前から無理がある計画は、審査に通過できなくなる可能性も高くなるでしょう。
住宅ローンを計画的に返済するためには、将来のライフイベントや経済状況の変化を見据えた慎重な計画が求められます。
ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも選択肢に入れて、適切な返済を心がけるようにしましょう。