NISAで投資をしていると金融市場の暴落によって、元本割れを引き起こし、一時的であっても損失が大きく膨らむ可能性があります。
暴落が発生すれば、投資にかかわる多くの人々が不安を煽られることでしょう。
大きく資金が減っていくことから、損切りを検討したほうがいいと考える方もいるかもしれません。
結論を言えば、つみたて投資枠を利用した投資信託への積立投資では、NISAの損切りはしないほうがいいです。
この記事では、NISAで損切りしないほうがいい理由とそれでも損切りが必要なケース、損切りしないための投資方法を解説します。
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NISAで損切りしないほうがいい理由は、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
2024年に開始した新NISAは、つみたて投資枠・成長投資枠ともに、非課税保有期間が無期限化されました。
かつては一般NISAが5年、つみたてNISAが20年と非課税保有期間に制限がありました。
しかし、現在の新NISAでは、より長期的な目線で投資できるようになったと考えられます。
仮に、短期的な市場変動により保有している株・投資信託の価値が大きく下がったとしても、相場の回復をじっくり待つことができるでしょう。
非課税保有期間が無期限であれば、NISAで投資商品を保有できる時間に制限はないため、一時的な含み損では売却せずに保有を継続することが合理的です。
市場が一時的に急落すれば含み損が大きく増加しますが、反対にいえば割安で買い増しができる絶好のチャンスです。
個別株であれば安い株価で購入可能になり、投資信託であれば同じ投資金額でより多くの口数を取得できます。
これによって平均取得単価が下がり、上昇局面へ転じれば利益が出やすくなるでしょう。
あとから相場を振り返れば、暴落の局面が買い時であったという話は珍しくありません。
2020年のコロナショック、2025年のトランプ関税によるショックでは、一時的に大きく値を下げましたが、S&P500、日経平均はともに短期間で株価がV字回復しています。
価格が下落したタイミングで損切りし、追加購入をおこなわないことは、絶好の投資機会を自ら放棄することになります。
投資初心者であるほど買い時の見極めは難しいことから、長期的な成果を期待できる投資方法を実践することが重要です。
積立投資の代表的なルールは、ドルコスト平均法に基づくものであり、投資対象の継続的な購入をおこないます。
ドルコスト平均法は、価格が変動する投資信託などの金融商品を、定期的に一定額購入することで、購入単価を平均化させる投資方法です。
S&P500を対象にする投資信託など、継続的な成長を期待できる金融商品に対して実践すれば、買い時を見極めなくても長期的には一定の成果を見込めるでしょう。
しかし、ドルコスト平均法に基づく積立投資をおこなうなら、最後までルールを守る必要があります。
損切りをおこなえば、積立投資のルールから逸脱することになるため、ドルコスト平均法の効果が失われ、結果に悪い影響を与えるかもしれません。
積立投資に限らず、投資は最初に決めた成果を期待できるルールを守って売買を続けることが、結果を出す基本になります。
NISA口座で株や投資信託を売買する場合、最大の損失額は投資元本であり、元本以上の損失が出ない仕組みです。
仮に保有している金融商品が大幅に暴落した場合でも、投資元本を超えて損失が発生せず、借金を抱えるような事態にはなりません。
NISAでおこなわれる取引は現物取引であり、現物取引よりも損切りが重要になる投資方法は信用取引です。
借り入れで株を購入する信用取引は、投資元本を超えてマイナスが拡大する場合もあります。
信用取引で損失が出ても保有を続けるには、追証と呼ばれる追加の資金を支払う必要が出てくるため、リスクを管理するためには損切りが重要です。
しかし、NISAで投資する場合は、売却しない限り損失が確定することはなく、大きな含み損が出たとしてもペナルティもなく保有を続けられます。
よって、長期投資を前提にするNISAでは損失が出たことで、急いで損切りをしなければならない理由が基本的にありません。
NISA口座は利益が非課税になりますが、損失が出た場合に利用できる節税制度が利用できないというデメリットがあります。
損失を利益と相殺して申告することで節税を期待できる、損益通算が利用できません。
NISA口座では利益にかかる税金が発生しないため、税法上は利益が存在しないことになりますが、損失を含めてなかったことになる仕組みです。
損益通算ができないことから、発生した損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し、翌年以降の利益から控除できる繰越控除もできません。
よって、損切りをした際に利用できる節税方法がないため、特別な理由がない限りは損失を確定させずに投資を続けるほうが、メリットは大きいでしょう。
NISAは損切りしないほうがいいことは間違いありませんが、NISAでも損切りが必要になる可能性があるケースを3つ紹介します。
それぞれ詳しく解説します。
新NISAの成長投資枠では投資信託の他に、日本の株式市場に上場しており、特定の企業が発行する個別株を購入できます。
2025年7月時点での上場企業数は3,950社であり、数千以上の選択肢から投資対象を選択することになります。
業績が好調であり、長期的な成長を期待できる投資対象もあれば、業績が悪化しており、株価が継続的に下落する可能性もある投資対象もあるでしょう。
投資信託のように、複数の投資対象に分散してリスクを管理している場合とは異なり、個別株への投資は特定の企業の成長性に投資結果が依存してしまう危険性があります。
よって、保有している個別株によっては、保有を続けても値上がりが見込めない場合や、さらに下落の余地がある場合もあるため、損切りをしたほうがいいケースも考えられます。
一方で、個別株ではなく投資信託であれば、必ずしも損切りをしなくてもいいとは限りません。
投資信託のなかには、特定のテーマに集中投資する偏った投資対象の商品もあります。
分散が不十分な投資信託はリスクが高いだけでなく、長期的な成果も見込めないかもしれません。
分散効果が期待できる代表的なインデックスファンドに投資をしたほうが、長期的には安定した成果を期待しやすいと考えられます。
偏った投資対象の投資信託に投資をして損失が出てしまった場合は、長期保有で利益が出るとは限りません。
住宅購入・子どもの教育費などのライフイベント、医療費などの緊急の出費で資金を確保しなければならない事態もあるかもしれません。
しかし、資金を確保したいタイミングで、保有資産に損失が発生していることも考えられます。
投資はできる限り途中売却をしないために、余裕資金の範囲内で始めることが基本です。
唐突に大量の資金が必要になることがあれば、投資信託を売却せざるをえない状況に陥る可能性はあります。
投資は将来に備えてこなうものであるため、損切りをしてでも資金を確保することになります。
ただし、少しでも資金確保時の損切りのリスクを減らすには、NISAの株・投資信託だけでなく、さまざまな資産を保有するリスク分散が重要です。
FP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家に相談したうえで、NISAを含む保有している資産のバランスを考えることが重要になります。
そもそも、損切りに関する認識に誤解がある方もいるかもしれません。
損切りは投資方法によっては重要ですが、具体的な場面と方法を理解しておこなう必要があります。
NISAでおこなう損切りは、損切りの基本を理解していないために、ただ大きくなるマイナスを恐れて感情的に損失を確定させただけになることも多いです。
NISAで損切りを考える前に、投資の損切りを判断する基礎知識を確認していきましょう。
損切りは、投資対象を購入した時点で基準を設けておこなうことが基本になります。
例えば、10万円の損失が発生したら、購入価格から10%下落したら損切りするという基準を事前に設定することで、想定以上の損失を抑える効果を期待できます。
このようなルールを設定する理由は、株の信用取引やFXなど損失が発生することを前提にした短期投資であることが基本です。
損切りをしてもマイナスを上回るリターンが期待できるようにして、取引を繰り返すことで利益が損失を上回る状況を目指します。
損切りをおこなわなければ、状況によっては際限なく損失が増加してしまい、リターンを確保できていたとしても損失が大きくなり、全体の成績がマイナスになるからです。
NISA口座での投資は、最初から損失が出ることを前提におこなう取引ではないため、一時的にマイナスが出たとしても、損切りを投資戦略に組み込むことは適切ではありません。
短期投資で損切りをする場合は、投資対象のチャートを分析して判断する方法もあります。
テクニカル分析は過去の値動きをチャートで表して、トレンドやパターンを把握して投資対象の値動きを予測する方法です。
トレンド系の分析は、投資対象が現在の時点で上昇トレンドにあるのか下落トレンドにあるのかを判断します。
オシレーター系の分析は、現在の状況が買われ過ぎているのか、売られ過ぎているのかを分析する仕組みです。
テクニカル分析を活用して損切りのルールを作ることで、過去の値動きの傾向に基づいた判断ができるようになります。
損切りは衝動的におこなうものではなく、過去の情報を参考に分析して適切なルール作りをしておこなうものです。
損切りに限らず、効果的な投資方法は、決めたルールを忠実に守り続けることで成果を期待できます。
NISAのドルコスト平均法を前提にした積立投資に、損切りをするルールは存在しません。
ドルコスト平均法による積立投資で、長期的な成果を期待できる状態にあるなら、途中でマイナスが出たとしても、決めたルールを守って投資を続けることが最善になるでしょう。
損切りはマイナスが出たら無計画におこなうものではないこと、NISAを利用した投資方法では損切りを前提としないことから、損切りをしなくても問題がない投資方法を考える必要があります。
NISAで損切りしないための投資方法を以下にまとめました。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
NISAでは成長投資枠を利用して、個別株や特定のテーマに投資する投資信託にも投資できます。
しかし、長期的な値上がりが期待できるかどうかを判断することは、投資初心者では難しいです。
ドルコスト平均法で積立投資をする投資対象は、長期的な値上がりが期待できる投資信託を選びましょう。
S&P500と連動するインデックスファンドなど、長期的に右肩上がりの成長が期待できる、分散効果が高く安定した投資信託に投資します。
値下がりしても安心して投資できる投資対象を選ぶと、一時的に含み損が発生しても、長期的にはプラスになることが期待できるため、投資を続けやすくなるでしょう。
「毎月1日に2万円を投資する」など、ドルコスト平均法に基づいたルールを守って投資を続けましょう。
価格が安い時には多くの口数を取得して、価格が高い時には購入口数が減少することから、取得単価が平均化されます。
一時的に価格が下落しても、長期的に回復すれば、平均単価を上回るリターンを得やすくなるでしょう。
ドルコスト平均法に基づく投資方法は、毎月同じ日に自動買付をおこなうルールを証券会社で設定すれば、簡単に実践可能です。
NISAの積立投資では投資信託の損益を確認する回数が多いほど、短期的な値動きに反応してしまい、損切りにつながるリスクがあります。
ドルコスト平均法による投資は毎日の値動きを見る必要はなく、証券会社で自動買付をおこなう設定にすれば、損益を確認することなく機械的にルール通りの取引が可能です。
損益を確認することで投資対象の値動きが気になるのであれば、確認する回数を減らすことが損切りのリスクを減らすことにつながります。
現在の時点で、NISAで損失が発生していて不安を抱えている方もいるかもしれません。
ドルコスト平均法による投資方法が間違っていないのであれば、損益を見ないようにすることで、安定したメンタルで投資を続けられるでしょう。
積立投資は年単位でおこなうものであるため、人によっては年1回しか損益を確認しない場合もありますが、自動買付を設定していれば問題なく続けられます。
最後に、NISAの売却状況に関するデータから、他の方がどのようにNISAを運用しているのかを考えていきます。
投資枠 | 売却銘柄 | 売却していない人の割合 |
つみたて投資枠 | 0.3銘柄 | 83.2% |
成長投資枠 | 0.6銘柄 | 75.3% |
日本証券業協会『新 NISA 開始1年後の利用動向に関する調査結果』より筆者作成
2024年中の売却銘柄数は、つみたて投資枠で0.3銘柄、成長投資枠で0.6銘柄であり、どちらも1銘柄を切っています。
なぜなら、売却していない人の割合がつみたて投資枠で83.2%であり、8割を超えているからです。
2024年8月には大きく値を下げる場面もありましたが、多くのNISA利用者が損切りをせずに投資を続けたことがわかります。
投資枠 | プラスの人の割合 | マイナスの人の割合 |
つみたて投資枠 | 82.8% | 2.3% |
成長投資枠 | 70.2% | 12.2% |
日本証券業協会『新 NISA 開始1年後の利用動向に関する調査結果』より筆者作成
2024年時点の新NISAの損益状況は、プラスの人の割合がつみたて投資枠で82.8%、成長投資枠で70.2%となり、多くの方がプラスになりました。
証券会社によっては自動買付で機械的に売買できることから、損益状況を把握していない人がどちらの投資枠でも10%以上存在しました。
特につみたて投資枠の投資では、マイナスの人の割合が2.3%と非常に低い状況です。
以上の売却状況に関するデータから、多くのNISAの利用者は株式市場の一時的な暴落を気に留めることなく、投資を順調に続けていることがわかります。
仮に現在の時点で損失が発生している状況にあっても、過度に心配する必要はないでしょう。
NISAは一時的な含み損に動揺することなく、長期的な成果を期待して投資するべきです。
ただし、すでに個別株や偏った投資対象の投資信託を購入している場合は、必要に応じてNISAの保有銘柄を見直す必要があるかもしれません。
NISAの売却状況でつみたて投資枠と成長投資枠を比較して、成長投資枠のほうが損益がマイナスになっている人の割合が多いことから、銘柄の選定を含めて適切に投資することが難しいからです。
住宅の購入・子どもの進学などのライフイベントで資金を確保するために、NISAを含めて適切なポートフォリオを組みたい場合は、FP(ファイナンシャルプランナー)などの専門家に相談することをおすすめします。