「貯金なし」「頭金なし」というマイホームを購入するにあたって先立つ資金がない状態で、住宅を購入できるのか疑問に思う方もいることでしょう。
ケース次第ではありますが、貯金・頭金がない場合でも、購入がまったくできないわけではなく、理論上は可能性があります。
また、「貯金なし」「頭金なし」の両方に該当するケースと、貯金はあっても頭金なしでマイホームを購入するケースでは状況も変わるため、一概に判断できません。
この記事では、貯金なし・頭金なしのそれぞれのケースにおいて、マイホームを購入できるのかを解説し、購入が難しい理由と考えられるリスクを紹介します。
記事を読むことで、貯金なし・頭金なしでマイホームを購入する難しさを理解したうえで、最低限、用意するべき資金を把握できるようになります。
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マイホームの購入条件において、「貯金なし」「頭金なし」のケースは以下の2通りが考えられます。
それぞれのケースで状況が大きく異なるため、場合分けしたうえで詳しく見ていきましょう。
貯金がまったくない状態にあり、頭金を支払えないケースで、マイホームを購入できるのでしょうか。
マイホームの購入には、通常、住宅ローンを利用します。金融機関から住宅の購入費用をすべて融資してもらえれば、理論上は自己資金ゼロで住宅を購入できます。
結論からいうと、不可能ではありませんが、現実的ではないといえるでしょう。
仮に、住宅ローンの融資で頭金を用意しない条件が認められたとしても、マイホームの購入にはそのほかにもさまざまな費用がかかります。
後ほど具体的な費用については詳しく解説しますが、まとまった貯金がない状態ではマイホームの購入にかかる費用を負担することが難しいでしょう。
ただし、両親・祖父母などから援助を受けられるなど、貯金がなくても一定の負担を肩代わりしてもらえるケースはあるかもしれません。
援助を受けられる金額次第ではありますが、本人に貯金がなくても支払い能力のある第三者から援助を受けられる場合は、住宅の購入が可能になることがあります。
手元にできる限り貯金を残したうえで、住宅ローンを組みたいと考えるケースもあります。
現在の住宅ローンは低金利であることから、融資額が増えて総返済額が増加するリスクが相対的に低くなっています。
そのため、増加する利息よりも収益を期待できる資産運用をおこなうなどの理由で、頭金を支払わずで手元資金を確保するメリットのほうが大きいと考える方もいることでしょう。
住宅ローンは金融機関の審査に通過できれば、物件の購入費用の全額を借り入れできるフルローンを利用できます。
フルローンが認められれば、頭金なしでマイホームを購入できるため、こちらのケースでは理論上の話ではなく、第三者の援助なく現実的にも可能であるといえます。
しかし、頭金なしでマイホームを購入する場合は、いくつかのリスクがあるため、理解したうえでフルローンの利用を検討したほうがいいでしょう。
第三者から多額の援助を受けられるケースを除いて、貯金がない状態でマイホームの購入が難しい理由は以下の3つです。
それぞれ詳しく解説します。
貯金や頭金がない状態で住宅ローンを組み、住宅を購入する場合でも、負担しなければならない費用があります。
手付金とは、売買契約の成立を示すために、契約を結ぶタイミングで支払うものです。頭金がある前提で住宅ローンを組んだ場合は、頭金の一部として利用されます。
また、手付金を支払うことで、契約解除に関するルールが適用されます。例えば、買主が契約を解除する場合は手付金の放棄、売主が解除する場合はその倍額の支払いが求められるなど、手付金には契約履行を促すペナルティとしての役割を持っています。
そのため、手付金の目安は物件価格の5%~10%程度と高額であり、売買のタイミングで現金で用意しなくてはなりません。
手付金も融資を受けて用意することはできるかもしれません。しかし、手付金の融資が認められるケースは少なく、現実的に不可能といえるでしょう。
貯金がない状態では、手付金を現金で用意することが難しいため、契約が成立しない可能性が非常に高いです。
仮に手付金を用意できたとしても、マイホームの購入では物件の購入価格以外にもさまざまな費用が継続的に発生します。
物件の登記費用や各種手数料など、住宅購入における諸費用の額は物件価格の6%~10%程度が目安です。
入居後にも固定資産税などの税金、火災保険などの保険料の支払いが発生し、複数のランニングコストが発生します。
さらに、マイホームを持てば、住宅のメンテナンス・修繕費が必要に応じて発生することもあるでしょう。
貯金がなければこれらの費用を負担することが難しく、急な出費が発生した場合にも対応が難しいため、住宅ローンの返済と合わせて破綻する可能性が高まります。
そもそも貯金なし・頭金なしの状態で住宅ローンを組もうとしても、多くの金融機関で審査が厳しくなります。もしくは、審査に通過できずに、融資を受けられないかもしれません。
金融機関の立場になって考えれば、物件価格の全額を貯金がなく信用力の低い顧客に対して融資することは、非常にリスクが高いといえます。
借入希望者の年収・勤続年数などの属性がよく、返済能力が高く評価された場合を除いて、貯金なし・頭金なしの条件で融資を受けられるとは考えにくいです。
仮に融資を受けられたとしても、貯金なし・頭金なしの条件がマイナスとなり、融資額が大きく制限されることもあるでしょう。
希望する条件で融資を受けられない場合は、頭金の割合を増やすなどの対策が考えられますが、貯金がなければ不可能です。
以上の理由から、貯金なしでマイホームを購入することは、審査に通過できるかどうかも定かではなく、手付金・諸費用などの支払いが難しいことから、現実的ではないといえます。
貯金はあっても頭金なし、または頭金を限りなく少なくしてマイホームを購入するリスクは以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
頭金がない状態で住宅購入を進めると、借入金額が物件価格の全額に近い形となり、毎月の返済額が大きくなります。
頭金を支払えば借入金額が減少し、元金返済に充てる金額が少なくなるため、利息負担が軽減される効果を期待できます。
一方で、頭金がない場合は借入金額が増えるため、返済期間中に支払う総利息が大きく膨れ上がることも考えられるでしょう。
無計画にフルローンを利用すると、家計の負担が大きくなります。収入が減少した場合や予想外の支出が発生した場合、生活全体のバランスが崩れるリスクが増加するかもしれません。
特に住宅ローンは、数十年以上にわたる長期的な返済を想定しているため、総返済額が大きく増加しやすくなることから、フルローンはおすすめできません。
家計における毎月の返済負担を考えてローンを組まなければ、頭金なしで住宅を購入することはリスクが高いといえるでしょう。
住宅ローンの金利タイプで変動金利を選択した場合は、フルローンは借入金額の大きさから、金利が上昇した際の影響が非常に大きくなります。
返済開始時点では低金利だったとしても、金利上昇局面に入ると、返済負担が急激に増加し、家計の収支バランスが大きく崩れるかもしれません。
金利の上昇は総返済額にも影響しており、上昇すると支払う利息が大きく増加します。場合によっては、手元に資金を残すメリットを金利上昇によるデメリットが上回ることもあるでしょう。
金利の変動に対しては、固定金利を選択することでリスクを軽減できます。しかし、固定金利は変動金利と比較して初期の金利が高いことから、相対的に低金利の恩恵を受けにくいです。
頭金なしで住宅ローンを組む場合、固定金利を利用しない限り金利は一定ではなく、上昇する可能性があることを理解しておきましょう。
頭金がない場合、物件購入時の借入金額が大きくなるため、物件の市場価値が下落するとオーバーローンの状態になるリスクが高まります。
オーバーローンとは、ローン残債が物件の現在の市場価値を上回る状況のこと。反対に、ローン残債が市場価値を下回る状況は、アンダーローンと呼ばれます。
景気の悪化や不動産市場の調整により、物件価値が急激に下がるとオーバーローンに陥る可能性が高まります。この状態で売却してもローンを完済できないため、残債全額の返済を求められることもあります。
住宅ローンの返済が困難になり、オーバーローンの状態で住宅を売却せざるをえなくなると、最悪の場合は債務整理や自己破産で解決しなければならないかもしれません。
頭金なしで住宅ローンを組むとオーバーローンになる可能性が高まるため、返済が困難になった場合のリスクが非常に高いといえます。
住宅ローンを安定して返済するためには十分な貯金を準備してから、必要な資金を考慮したうえで組むことが理想です。
最後に、マイホームの購入に備えて用意したい資金の種類をまとめました。安定した住宅ローンを組む際に、現金で用意する必要がある資金です。
マイホームの購入に備えて用意したい資金の種類は、以下のとおりです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
ここまで頭金なしで住宅ローンを組めるかどうかを見てきましたが、住宅ローンを安定して返済するなら頭金の準備は重要です。
実際に頭金は住宅金融支援機構「2023年度 フラット35利用者調査」によると平均的に用意されている資金であり、頭金の平均額とその割合も公開されています。
住宅の種別 | 頭金の平均額 | 頭金の割合 |
注文住宅 | 699万円 | 18.1% |
土地付き注文住宅 | 473万円 | 9.7% |
建売住宅 | 294万円 | 8.2% |
マンション | 1,188万円 | 22.7% |
中古戸建住宅 | 219万円 | 8.7% |
中古マンション | 529万円 | 17.4% |
住宅金融支援機構『2023年度 フラット35利用者調査』より筆者作成
※1,000円以下は切り捨て
上記の表から、頭金の割合の目安は10%~20%程度であることがわかるため、最低でも10%程度は用意したいところです。
手付金は頭金とは別に用意するものではなく、頭金に含まれるという認識で問題ありません。頭金・手付金を合計して適切な割合に設定しましょう。
住宅ローンで発生する諸費用の例は、以下のとおりです。
諸費用 | 内容 |
融資手数料 | 住宅ローンの申し込みや審査、手続きにかかる事務処理費用 |
ローン保証料 | 住宅ローンの返済リスクを軽減するための保証を提供する費用 |
印紙税 | 住宅ローン契約書や関連書類に貼付する収入印紙に課される税金 |
登録免許税 | 所有権移転や抵当権設定登記にかかる税金 |
司法書士報酬 | 不動産登記などの法的手続きを司法書士に依頼する際に支払う報酬 |
物件調査手数料 | 物件の状態や権利関係を調査するために不動産会社に支払う費用 |
すべての諸費用を合算すると物件価格の6%~10%程度が目安であるため、頭金以外に諸費用も貯金しておく必要があります。
上記のとおり、マイホームの購入にはさまざまな費用が現金で発生することから、貯金がまったくない状態では購入が難しいといえるでしょう。
マイホームの購入に必要な資金は頭金と諸費用ですが、住宅ローンの返済が開始したあとのことを考えるなら、予備資金の貯金も重要です。
予備資金とは、住宅ローンを返済する生活を安定させるために必要な資金です。一般的には半年分の生活費となる貯金額を確保します。
生活費に加えて、教育費など将来的に大きな出費が見込まれる場合は、その支出も考慮したうえで予備資金を準備しましょう。
マイホームの購入では最低限でも、頭金・諸費用・予備資金の3種類の資金を貯金してからおこないたいところです。
マイホームの購入で貯金も頭金もない場合、手付金など初期費用を現金で用意することが難しく、契約成立自体が危ぶまれることもあります。
住宅ローンの返済は十分な資金がなければ急な出費に対応できないことからリスクが高いため、十分に貯金を貯めてから購入を検討するようにしましょう。
貯金が貯まらないなどの総合的なお金の悩みをお持ちの場合は、家計の金融の専門家であるファイナンシャルプランナーに相談してください。
これまで貯金が貯まらなかった方も、収入と支出のバランスを最適化することで、継続して貯金を貯められるようになります。