貯金を考えるうえで重視したい指標に貯蓄率があります。
貯蓄率とは、手取りに占める貯蓄の割合のことであり、税金を差し引いた後に残る自由に使えるお金からどれだけ貯蓄に回せているかがわかるため重要な指標です。
貯蓄率を増やすことは、結婚や出産、子どもの教育費、老後などのライフイベントに備えた貯蓄を効率的に進めるだけでなく、より効率的に貯金を増やせる資産運用の確保できる資金の増加にもつながります。
この記事では、理想の貯蓄率について参考になるデータと貯金額のシミュレーションを紹介したうえで、貯蓄率を増やす方法・目標、毎月の貯蓄の一部を資産運用に回す方法まで解説します。
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理想の貯蓄率が何%であるかは、それぞれの年代・年収・世帯人数によっても異なります。
そのため、今回は年代別・年収別・世帯人数別の3種類の基準をもとに平均データから導き出される理想の貯蓄率を紹介します。
年代 | 手取り | 貯金に回せる資金 | 貯蓄率 |
20代以下 | 310,259円 | 145,513円 | 46% |
30代 | 438,910円 | 193,865円 | 44% |
40代 | 499,198円 | 203,697円 | 40% |
50代 | 485,893円 | 167,429円 | 34% |
60代 | 362,219円 | 85,117円 | 23% |
70代以上 | 335,113円 | 98,575円 | 29% |
『総務省 家計調査 2022』より筆者作成
年代では、20代以下が最も貯蓄率が高く、30代以降に貯蓄率が減少していく結果が見られました。
20代以下は、独身の方や実家暮らしの方も多いことから、生活にかかるコストがかかりにくく、手取りは30代以降の年代よりも少ないながら貯金に回せる資金の割合が多いことが原因と考えられます。
そのため、年代が若ければ若いほど、貯蓄率は高めに設定するほうが良いことがわかります。
年収 | 手取り | 貯金に回せる資金 | 貯蓄率 |
374万円未満 | 222,597円 | 60,292円 | 27% |
374万円以上520万円未満 | 321,462円 | 108,109円 | 33% |
520万円以上672万円未満 | 395,996円 | 141,437円 | 35% |
672万円以上890万円未満 | 505,128円 | 192,824円 | 38% |
890万円以上 | 729,824円 | 305,259円 | 41% |
『総務省 家計調査 2022』より筆者作成
年収は多ければ多いほど、貯蓄に回せる資金も増加し、貯蓄率も高まることがわかります。
年収374万円付近の方の理想の貯蓄率は30%程度になりますが、890万円以上ある方は40%を基準にしたほうが良いなど、年収によって理想の貯蓄率に開きがあるといえます。
ご自身の年収にあわせた貯蓄率を設定することが必要であるといえるでしょう。
世帯人数 | 手取り | 貯金に回せる資金 | 貯蓄率 |
1人 | 302,358円 | 123,924円 | 40% |
2人 | 422,879円 | 134,897円 | 31% |
3人 | 510,813円 | 189,528円 | 37% |
4人 | 549,106円 | 215,267円 | 39% |
5人 | 564,650円 | 196,967円 | 34% |
6人以上 | 530,432円 | 148,740円 | 28% |
『総務省 家計調査 2022』より筆者作成
世帯人数に関しては年代・年収と比較すると因果関係は見られず、2人~5人の2人以上の世帯に関しては30%程度となっています。
一方で、単身世帯の貯蓄率は高い傾向にあり、世帯人数の増加による貯蓄率の減少については、6人以上の世帯に関しては貯蓄率は低くなる傾向にあるようです。
年代・年収による理想の貯蓄率に加えて、単身世帯と2人以上の世帯であるかどうかで貯蓄率の設定を見直してみるのもいいかもしれません。
データから導きされる理想の貯蓄率は30%~50%と幅広いものとなりました。
よって、余裕のある方は50%以上、最低限でも30%の貯蓄率を目指すのが目標となりやすいでしょう。
より具体的に貯蓄すべき金額がわかるように、年収とデータから導き出された理想の貯蓄率から実際の貯金額を求めていきましょう。
年収400万円の方の手取りは、300万円~320万円程度となるため、ここでは310万円と仮定して実際の貯金額を計算します。
貯蓄率 | 年収400万円の年間貯金額 | 年収400万円の月間貯金額 |
30% | 93万円 | 7万7,500円 |
40% | 124万円 | 10万3,333円 |
50% | 155万円 | 12万9,166円 |
年収で考えれば貯蓄率は30%程度が理想ではありますが、独身であったり、実家暮らしで余裕があるなら40%~50%に設定するのもおすすめです。
年収400万円であれば毎月10万円の貯蓄を目指せば確実に30%を超える計算になるため、貯蓄の目標をわかりやすくするなら額面で設定しても問題ありません。
年収600万円の手取りは、450万円~470万円が目安であり、今回は460万円に設定して貯金額を計算しましょう。
貯蓄率 | 年収600万円の年間貯金額 | 年収600万円の月間貯金額 |
30% | 138万円 | 11万5,000円 |
40% | 184万円 | 15万3,333円 |
50% | 230万円 | 19万1,666円 |
年収で考えれば30%~40%が目安となってくるところです。
2人以上の世帯であり、出費も多く貯蓄を増やす余裕がない場合は、30%台を目安に貯蓄率を設定するのが良いでしょう。
年収800万円の手取りの目安は、600万円前後となるため、今回は600万円で計算します。
貯蓄率 | 年収800万円の年間貯金額 | 年収800万円の月間貯金額 |
30% | 180万円 | 15万円 |
40% | 240万円 | 20万円 |
50% | 300万円 | 25万円 |
年収が800万円ある場合は、30%後半から40%を超える貯蓄率を目指すのがおすすめです。
世帯人数も3人から4人の家庭の平均では40%近い貯蓄率となっており、上述した世帯人数のデータとも一致する目標となっています。
年収1,000万円の方の手取りの目安は、700万円~750万円程度といわれており、今回は730万円として計算します。
貯蓄率 | 年収1,000万円の年間貯金額 | 年収1,000万円の月間貯金額 |
30% | 219万円 | 18万2,500円 |
40% | 292万円 | 24万3,333円 |
50% | 365万円 | 30万4,166円 |
年収1,000万円を超える場合は、貯蓄率は40%以上を目標に貯金をしてみましょう。
毎月30万円を目標に貯金することができれば、3年で約1,000万円が貯金できる計算です。
ここまでの結果を参考に設定する貯蓄率と毎月の貯金額の目安を決めるようにしましょう。
貯蓄率を増やす方法は3つあります。
貯蓄率を増やすには、できる限り出費を減らして、手元に残る資金を増やすことが肝心です。
無駄な出費を減らすことは、貯金できるお金が増えることになるので、貯蓄率の向上につながります。
貯蓄率を増やすなら、まずは無駄な出費を減らすところから始めましょう。
家計簿などを付けて収支の流れを把握できるようにして、固定費などの継続して効果が得られる項目から出費を見直すのが良いでしょう。
例えば、現在の貯蓄率が28%であるとわかったとき、30%にしたい場合に節約は有効な手段といえます。
無駄な出費を減らしても目標としている貯蓄率に届かない場合は、副業をして収入自体の分母を上げる方法が考えられます。
副業で得た収入をすべて貯蓄するのであれば、分母が増えて支出が上昇しないため、大きく貯蓄率を向上させることにつながるでしょう。
どうしても現在の状況では目標としている貯蓄率に届かない場合は、収入を増やす方法も考えることをおすすめします。
貯蓄率を30%から40%に上げるなどの、目標を設定するうえではご自身の状況にあわせた基準で決めるようにしましょう。
20代かつ独身で実家暮らしの方は、データからも貯蓄率を上げやすいので60%~70%以上の貯蓄率に上げることも可能です。
しかし、40代で3人世帯の方が、20代の方のように50%以上の貯蓄率を目標にするのは難しいかもしれません。
貯蓄率は誰に対しても当てはまる最適な割合の基準は存在しないため、必ずしも40%を超えなくても効率的に貯蓄できている場合も考えられ、反対に30%を超えていたとしても効率的に貯蓄できているとは限りません。
貯蓄率の目標を高く設定したがために長く続かず、反動で無駄遣いが増え、必要な経費を支払わなかったことで問題が発生し、貯蓄率が減少してしまうケースも考えられます。
そのため、貯蓄率を増やすならご自身の状況にあわせて目標を設定し、その基準に到達できるように行動していくことが重要です。
貯蓄率を増やす目標や増やしたほうがいい理由には以下の3点が考えられます。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
貯蓄は、最低限でも半年分の生活費を賄える資金だけは確保しておいたほうがよいといわれています。
上記の生活防衛資金に加えて、結婚や出産、子どもの教育費、住宅の購入、退職後の生活資金など目標となるライフイベントに合わせた貯蓄をおこなうためには、できる限り貯蓄率を上げて貯金していくことが重要です。
例えば、『ゼクシィ 結婚トレンド調査2022調べ』では、結婚式(挙式、披露宴・ウエディングパーティーの総額)の費用は平均で約304万円かかるといわれており、出産費用は『出産費用の実態把握に関する調査研究(令和3年度)の結果等について』で約47万円かかるといわれています。
まとまった資金が必要になるタイミングがあれば、その度に貯蓄を崩すことになるため、ご自身のライフイベントに合わせて貯蓄率を設定し、目標通りに貯金を続けることがライフイベントを迎えるための準備にもなります。
FIREとは「Financial Independence Retire Early」の略称であり、日本でも早期リタイアのことをこのように呼ぶようになりました。
貯蓄率は、早期リタイアを検討するにあたっても重要な指標になるといわれており、その最低限の基準が年間の貯蓄率が50%であることです。
例えば、生活費が300万円、貯蓄額が300万円であれば、翌年は同等の生活費に調整すれば収入を得ることなく生活できるといえるでしょう。
しかし、実際には物価の高騰などによる生活費の上昇を考慮する必要があるため、60%~70%程度の貯蓄率でFIREを検討するのが現実的です。
例えば、20歳から働き始め、定年が60歳であるとして、貯蓄率が50%以上の状態で働き続ければ、40歳の時点で折り返し地点となり、20年分の労働で得る必要がある生活費は貯蓄できている計算になります。
この状況では当面の生活費を確保できているといえるので、退職しても生活できる状態にあり経済的に自立しているといえます。
貯蓄率はFIREを目指すうえで重要な指標であるため、将来的に早期リタイアを目標としている場合は、貯蓄率をもとにFIREできるかどうかを考えるのがおすすめです。
貯蓄率を増やすと、資産運用に利用できる資金を確保することにつながります。
貯蓄が増えれば、生活防衛資金を確保したうえで、5年以内のライフイベントに使用することもない余った資金が生まれます。
このような余った資金を資産運用に利用することで、最終的に手もとに残る貯金額の増加が期待できるため、退職後の生活資金などの10年以上先のライフイベントに対する備えやFIREの準備にも有効です。
貯蓄率で資産運用に利用できる資金を考えるなら、貯蓄した資金のうち何割かを資産運用に回し、毎月、積み立てて投資する方法が手元に貯金がほとんど残っていない方でも可能であるため、多くの方が実践できる資産運用の方法といえます。
貯蓄率が増えるほど、より効率的に貯蓄を増やせる資産運用に回せる資金が増えるため、資産運用に利用できる資金を確保する意味でも貯蓄率は高いほうがいいといえるでしょう。
毎月の貯蓄の一部を資産運用に回す前提で、適した資産運用の方法を3つ紹介します。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
個人向け国債は、1口1万円からいつでも購入可能であり、額面に応じた利息を受け取れる金融商品です。
個人向け国債の価値を保証しているのは日本国であるため、安心して運用しやすい商品といえるでしょう。
満期が設定されており、運用年数も複数の選択肢から選択できるため、ご自身の目標にあわせたタイミングに運用期間を調整できます。
万が一にも中途解約をしたくなった場合は、利息収入は減少しますが、元本は返還されます。
国が発行元であることからリスクが低い反面、利率などは低いため、利益を期待して運用するなら別の資産運用を検討するのが良いでしょう。
貯蓄型保険は、保険料を掛け捨てではなく貯蓄する形式の保険であり、毎月保険料を積み立てて貯蓄できます。
通常の保険と同様に、終身保険、養老保険、個人年金保険、学資・こども保険など多くの種類があり、種類によってさまざまな保証が受けられます。
満期になるとこれまで支払った保険料を受け取ることができますが、満期時には預金よりも高い利率で保険料に利息が上乗せされることが期待できることから、資産運用の方法のひとつとなっています。
保険による保証を受けながら資産運用が可能であり、毎月、貯蓄の一部を保険料の支払いに充てることで続けられるため、メリットも大きく始めやすいです。
ただし、途中解約をする場合は解約返戻金が支払った保険料の元本を下回ることがあるため、貯蓄率が安定しなくなったことを理由にやめるにはリスクが伴います。
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株式の購入には、まとまった資金が必要になりますが、投資信託を通して株式に投資するなら、少額の投資で幅広い投資対象に投資することが可能です。
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投資額を含めて誰でも気軽に始めやすい反面、金融市場の価格変動の影響を受けやすく、元本割れのリスクもあるため注意が必要です。
理想の貯蓄率は、年代や年収によっても異なるため、現在の貯蓄率を求めたうえで目標となる貯蓄率を設定するようにしましょう。
またライフイベントの準備やFIREを検討する場合は、資金を用意するために必要な貯蓄率を考える必要があり、貯蓄の一部を資産運用に回してお金を用意することも考えるのも選択肢のひとつです。
ご自身でどのように目標を設定し、どのように資産運用をおこなっていくべきかわからない場合は、一度お金のプロに相談をしてから方針を固めることをおすすめします。