NISAは、株式・投資信託の利益が非課税になる、個人投資家のための税制優遇制度です。
NISAを利用して投資商品を取引すれば、売却益や配当金にかかる約20%の税金がかからなくなるため、メリットしかない制度であると考えるかもしれません。
しかし、NISAにはデメリットもあります。デメリットを理解せずに投資を始めると、損をする可能性もあるため、メリットだけでなくデメリットと注意点も把握してから始めましょう。
本記事では、NISAの基本的な概要、メリット・デメリットをあわせて紹介します。NISAを利用する場合に知っておきたい細かな注意点も解説するため、記事を読むことでNISAを適切に利用する方法がわかるようになるでしょう。
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NISA(ニーサ)は、「Nippon Individual Savings Account」の略称であり、個人投資家のための税制優遇制度です。
株式や投資信託の売却益・配当金(分配金)を非課税で受け取れる口座を設けることで、個人投資家の資産形成を支援する目的で作られました。
株式や投資信託の利益には、分離課税として20.315%の決まった税金が課されますが、NISAの口座内で取引する場合は非課税になります。
また、口座開設・維持の手数料は原則無料です。商品ごとの売買手数料は、NISA口座を開設した金融機関によって異なります。
NISAの基本的な解説を踏まえて、過去の制度の歴史と現行制度の内容を紹介します。
年 | 内容 |
2014年 | NISA(通称:一般NISA)が開始、年間投資枠の上限は100万円、非課税期間は5年 |
2016年 | ジュニアNISAが開始、一般NISAの年間投資枠が100万円から120万円に引き上げられる |
2018年 | つみたてNISAが開始、年間投資枠の上限は40万円、非課税期間は20年 |
2023年 | 旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)、ジュニアNISAの新規受付を終了 |
2024年 | 現行のNISA(通称:新NISA)が開始 |
2014年、現在では一般NISAと呼ばれる最初のNISA制度が始まりました。イギリスの同様の制度であるISA(Individual Savings Account)を基にしています。
株式・投資信託など幅広い投資商品を対象に投資ができる点は共通していますが、投資枠と非課税期間の制約は現在とは異なりました。
2016年に開始した未成年者が対象のジュニアNISAは、年間投資枠の上限は80万円、非課税期間は5年でした。また、同じタイミングで一般NISAの年間投資枠の上限が100万円から120万円に引き上げられています。
ジュニアNISAはほかのNISA制度とは異なり、新NISAの制度に組み込まれることなく、2023年に新規受付を終了しました。しかし、2025年に、再び未成年者への資産形成支援として、こども支援NISAの拡充が検討されています。
2018年には、長期・積立・分散の三要素を満たす投資に適したファンドのみを投資対象とする、つみたてNISAが始まりました。年間投資枠は40万円で、非課税期間は20年です。
2020年には、一般NISAの投資枠を2階建てにする改正が提案されましたが、2024年のNISA制度に吸収されました。2024年の新NISAの開始にともない、旧NISA(一般NISA・つみたてNISA)の新規受付を終了しています。
2024年、一般NISAを成長投資枠、つみたてNISAをつみたて投資枠として組み込んだ、新しいNISA制度が開始されました。現在でも一般NISA、つみたてNISAという言葉が見られるのは、過去のNISA制度の歴史があるからです。
2024年以降、新NISAとも呼ばれる現行制度の内容を、以下にまとめました。
内容 | つみたて投資枠 | 成長投資枠 |
非課税期間 | 無期限 | |
年間投資枠 | 120万円 | 240万円 |
総投資枠(全体) | 1,800万円 | |
総投資枠(個別) | – | 1,200万円 |
投資対象 | 金融庁の基準を満たす投資信託 | 株式・投資信託など |
対象年齢 | 18歳以上 |
過去の制度と比較して目を引く部分は、非課税期間が無期限となっていることでしょう。年間投資枠も過去の一般NISA・つみたてNISAと比較すると増額されています。
また、かつての一般NISAとつみたてNISAは、どちらか一つまでしか利用できませんでした。しかし現行制度では、つみたて投資枠と成長投資枠を併用できます。
NISA制度は2014年に開始して以来、年を重ねるごとに使いやすく進化してきた歴史があります。
NISA制度の概要を踏まえたうえで、具体的にNISAを活用するメリットを5つ紹介します。詳しく見ていきましょう。
株式や投資信託などの金融商品に投資をして得た売却益・配当金(分配金)には、復興所得税もあわせて、通常20.315%の税金がかかります。
例えば、100万円の利益に対して、20.315%の税率で税金が徴収されると、税額は20万3,150円であるため、手元に残る利益は79万6,850円です。
しかし、NISAを利用すれば、NISA口座内で得た投資利益がすべて非課税となり、100万円の利益があれば全額を手元に残せることになります。
現行のNISAでは、成長投資枠とつみたて投資枠、異なる特徴を持つ2つの投資枠を併用できます。
成長投資枠は、個別株式を中心にさまざまな投資対象に投資できることが魅力であり、積極的にリターンを求める運用も可能です。
一方で、つみたて投資枠は金融庁が選定する長期的な積立投資に適した、投資信託・ETFのみに投資可能であることから、安定した資産形成ができます。
資産形成においては、保有する資産のバランスを考えることが重要です。例えば、成長投資枠でハイリスク・ハイリタ―ンな投資対象に投資をして、つみたて投資枠でローリスク・ローリターンな投資対象に投資するなど、併用することで柔軟な投資戦略を立てられます。
現行のNISA制度では、株や投資信託などの金融商品を非課税で保有できる期間は無期限です。よって、売却のタイミングをご自身のライフプランに柔軟にあわせることができます。
非課税期間が設定されていた旧制度では、非課税期間を意識して売却タイミングを考える必要がありました。また、非課税期間が終了すると、金融商品は自動的に課税口座に移管される仕組みでした。
非課税期間が無期限になったことで、売却することなく、生涯にわたって非課税で株の配当金や株主優待、投資信託の分配金を受け取り続けることも可能になります。
NISAでは成長投資枠で240万円、つみたて投資枠で120万円、合わせて最大で年間360万円の非課税投資枠を毎年利用できます。
240万円の成長投資枠は、100株(1単元)あたり10万円の株式を24単元購入可能です。120万円のつみたて投資枠では、毎月最大10万円の積み立て投資ができるでしょう。
過去の制度と比較しても投資枠は拡大しており、年間の投資額で期待できるリターンも増加しているため、非課税のメリットが大きくなっています。
現行と過去のNISAの大きな違いは、保有している金融商品を売却した場合、非課税投資枠が翌年以降に復活し、再利用できることです。
市場環境やライフステージに応じて、投資商品の入れ替えを非課税枠内で柔軟におこなうことが可能になります。
運用できる総投資枠は1,800万円から変わらないため、必要に応じて自由に利益を確定させられるでしょう。
NISAを活用するメリットだけを知ると、利用すれば必ず得をする制度と思うかもしれません。しかし、NISAは活用方法によってはデメリットも存在するため、理解してから利用したいところです。詳しく見ていきましょう。
NISA口座で投資できる対象は、主に株式や投資信託などの金融商品であり、価格変動のリスクがあります。市場環境や経済状況によって、投資した資産の評価額が下落する可能性があるため、元本を割り込むことも考えられるでしょう。
NISAを利用すれば利益が非課税になりますが、元本割れによる損失の補償や優遇措置があるわけではありません。利益が発生しなければ、恩恵を受けられない制度です。
そのため、リスクを適切に管理して投資対象を選定しなければ、利益が発生せずに非課税のメリットを得られない可能性があります。特にNISAを通じて投資を始める投資初心者の方は、適切な投資対象の選定を考える必要があるでしょう。
NISA口座で発生した損失は、通常の課税口座で認められる損益通算や、翌年以降への損失の繰越控除が適用されません。
損益通算は同一年度内で発生した利益と損失を相殺できる制度です。株式・投資信託で損失が出た場合でも、次に発生した利益と相殺することで、支払う税金を減らせます。
繰越控除を利用すれば、同一年度内だけではなく、3年間繰り越して、その間の利益と相殺することが可能です。課税口座で金融商品を取引する場合は、損益通算と繰越控除は重要な節税方法となるでしょう。
しかし、NISA口座内で損失が生じても、他の課税口座で得た利益と相殺はできません。NISAでハイリスク・ハイリターンである投資先を選ぶ場合は、注意するべきポイントとなるでしょう。
NISAでは、総投資枠の上限に1,800万円が設定されています。つみたて投資枠のみを利用する場合は、総投資枠の利用に制限はありません。
しかし、成長投資枠は上限である1,800万円のうち、1,200万円までしか利用できない制限があります。総投資枠をすべて活用したい場合、成長投資枠を上限となる1,200万円まで運用する際は、つみたて投資枠において600万円を運用する必要があります。
成長投資枠を活用して、高リターンを狙う投資戦略を重視する場合は、総投資枠の範囲内でも制限が生まれます。投資戦略の柔軟性に影響を及ぼす可能性があるため、デメリットといえるでしょう。
NISAのつみたて投資枠では、金融庁が定めた厳しい基準を満たした、投資信託やETFのみが投資対象となります。株式に投資できないだけでなく、投資信託であっても、つみたて投資枠の対象にならないことがあります。
例えば、REIT(不動産投資信託)、金などのコモディティのみを対象とする投資信託は、つみたて投資枠の対象外です。投資したい投資信託があっても、つみたて投資枠では投資できず、成長投資枠でしか投資できない可能性があります。
つみたて投資枠で投資できる商品が制限されていることも、投資戦略の柔軟性を損なう可能性があります。投資できる商品は金融庁の公式サイトで確認できるため、事前に把握するようにしましょう。
新NISAでは、売却後に取得価額分の非課税枠が復活します。しかし、再利用は総投資枠に限る話であり、年間の投資枠には適用されません。
例えば、240万円の成長投資枠で100万円を投資して、同一年度内で売却しても投資枠は復活せず、残りの投資枠は140万円となります。
勘違いをしてしまうと、NISAで長期的に投資をしたい投資対象を見つけたとしても、投資枠が残っておらず、来年までNISAを利用して投資ができなくなる可能性があります。
投資枠の再利用は、同一年度において柔軟に利用できるものではないことを理解しておきましょう。
最後に、NISAを利用する際に注意するべきポイントを以下にまとめました。
それぞれ詳しく解説します。
NISAは、長期的な資産形成を目的として設計された制度です。そのため、短期間で売買する投資スタイルには向いていません。
短期的な市場の値動きからリターンを狙う投資方法では、同一年度内で投資枠が復活しないことから、非課税のメリットを十分に生かすことが難しいでしょう。
また、損益通算・繰越控除ができないことから、損失が発生した場合はデメリットになる可能性があります。場合によっては損失確定をおこなうこともある短期投資では、損益通算できる課税口座のほうが適しています。
NISAを活用するなら、長期的かつ継続した資産運用が効果的です。非課税の恩恵は、年単位の長期投資で最大限に活かしやすくなります。
NISA口座の損失は損益通算や繰越控除が認められていないため、通常の課税口座以上に慎重に投資対象を選ぶ必要があります。
成長投資枠を活用して、個別株式やハイリスクな投資信託を選ぶ場合は、価格変動リスクを理解してから投資するようにしてください。
短期的に大きな含み損が発生するリスクだけでなく、投資対象の選定を間違えると、長期投資でも生涯に渡って利益を得られない可能性があります。場合によっては、個別株式を発行する会社が倒産して、NISAで保有する株式が無価値になるかもしれません。
そのため、長期投資に適したNISAでは、安定的で信頼性の高い投資対象を選びたいところです。
NISA口座で保有する株式から得られる配当金は非課税ですが、受け取り方法によっては課税されることがあります。
NISA口座で保有する株式の配当金は、株式数比例配分方式で受け取る場合に限り、非課税となります。銀行口座への直接振込など、ほかの受け取り方法では、NISAを利用していても課税対象です。
株式の配当金を受け取る場合は、配当金の受け取り方法が株式数比例配分方式になっていることを確認しましょう。
海外赴任などで日本の非居住者となった場合、NISA口座での新規投資はできなくなります。NISAは日本の居住者を対象にした制度ではありますが、5年以内の海外赴任であれば解約せずに保有を続けることが可能です。
ただし、自己都合による留学や、自主的なボランティア活動を目的に出国する場合は、この限りではありません。出国理由が海外赴任、海外赴任する方に帯同する配偶者を対象としています。
また、非居住期間中も既存の投資商品の保有を継続したい場合は、所定の手続きが必要です。一時的に非居住者となる場合は、出国前に必ずNISA口座を開設した金融機関で手続きをおこなうようにしましょう。
NISA口座の保有者が亡くなった場合、その時点で非課税枠が失効し、保有商品は一般の課税口座へ移管されます。相続後は、移管後の価額が取得価額となり、以後の利益には課税される仕組みです。
相続の際には、死亡日の時価をもとに相続税の課税対象になります。NISAは投資の利益は非課税になりますが、相続税は非課税にならないため気を付けましょう。
NISAは、非課税保有期間は無期限ではありますが、相続時には課税されます。いつまでも保有できるからこそ、ご自身のライフプランにあわせて、売却タイミングを考えることも重要になるでしょう。
NISAは、投資によって得られた利益が非課税になるため、資産形成をおこなう個人投資家にとって非常に魅力的な制度です。しかし、デメリットや利用するにあたって気を付ける必要がある注意点もあります。
制度を正しく理解しなければ、NISAの恩恵を十分に活かせません。場合によっては、損益通算・繰越控除を考慮すると、課税口座で取引した場合と比較して損をすることもあります。
NISAはメリットだけではなく、デメリットも理解したうえで利用するようにしましょう。NISAの具体的な活用方法を詳しく知りたい場合は、お金の悩みの専門家であるFP(ファイナンシャルプランナー)への相談も検討してください。